(愛知保険医新聞2024年7月25日号)
米国の科学誌「Bulletin of the Atomic Scientists」は本年一月、人類滅亡を意味する午前零時まで残り九十秒を示す「終末時計」を発表した。昨年に引き続き、人類は前例のない存亡の危機に直面しており、その要因として、二〇二二年二月に始まったロシアによるウクライナ侵略を挙げている。グテーレス国連事務総長も「終末時計が人々に聴こえるほど大きな音を立てながら進んでいる」と同様の認識を表明している。
ロシアは戦術核兵器をベラルーシにも配備し、軍事演習を行うなど、核兵器による威嚇を繰り返している。一方、米国や他のNATO諸国はこれに対抗し、核兵器の先制使用の可能性を否定することなく、追加配備を画策している。両陣営が喧伝する「核抑止力」の強化は、皮肉にも核戦争の危機を深刻化させている。エスカレートするイスラエル軍によるガザ攻撃に対し、「STOP GENOCIDE in GAZA」の声が世界中で巻き起こっている。しかし、無抵抗の非戦闘員を平然と殺害するイスラエルの政治的狂気が、核兵器使用を躊躇うとは思えない。
被爆者は被爆による心身の痛みを乗り越え、ヒロシマ・ナガサキの被爆の実相を国の内外に広げる活動を展開してきた。そして、核兵器廃絶の国際世論を大きく喚起し、人類史上初めて、すべての核兵器を違法化(核による威嚇を禁止し、核抑止論の危険性を喚起)する核兵器禁止条約の成立・発効を強く後押しした。批准国は七十、署名国は九十三となり、すでに世界の半数に迫る国々が賛同している。核使用を許さない国際的な共同の進展に確信を持ちたい。
日本は唯一の戦争被爆国であり、私たちは日本政府に核兵器禁止条約の一刻も早い批准を迫るべきである。このハードルを超えずして核兵器廃絶は達成されない。保団連も加わる核兵器廃絶日本NGO連絡会を母体として、この四月「核兵器をなくす日本キャンペーン」が発足した。二〇三〇年までにこのハードルを超えるため、超党派で力を合わせ、日本政府や議員に力強く働きかけることを活動の柱にあげている。連帯・支援を進めたい。
来年は被爆八十年。被爆者の平均年齢は八十五歳を超えた。私たちは核兵器の危険にさらされている当事者である。被爆者とともに来月の原水爆禁止世界大会を成功させるとともに、今こそ被爆者から平和のバトンを受け継ぎ、反核平和運動をいっそう力強く牽引していきたい。