2022年6月3日

日本経済新聞 リフィル処方「社説」に抗議

 愛知県保険医協会は、2022年6月3日付で、5月2日の日経新聞社説「リフィル処方の一律拒否を認めるな」に関して理事長名で抗議声明を送付した。以下、全文を紹介します。
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 貴紙は5月2日「社説」で「リフィル処方の一律拒否を認めるな」を掲載し、リフィル処方箋を一律に拒否する診療所に対して、国が指導して対応を是正するよう求めるべきと提言しています。
 リフィル処方は症状が安定している患者が対象になっています。「社説」は全体的に「薬をもらうために通院」という文脈ですが、「症状の安定」は患者が判断できるものでなく、医師が患者を診察して初めて「症状の安定」が確認できるものです。医師法では、医師は適切に診断して、それに基づいて処方しなければならないとしています。リフィル処方は、患者の診断をする上で欠かせない検査ができず(させない仕組み)、これでは外来医療の質は確保できません。保険診療は無診察投薬をしないのが原則であり、このような原則には何も触れずに、「保険医療機関としての適格性を疑う」と言い切るのは到底容認できません。
 「医療機関が勝手に自院の方針として一律に対応を拒否するのは制度の趣旨を逸脱」としていますが、日本医師会の調査にも見られるように、1カ月を超える処方について、患者の服薬遵守の不備、症状悪化や副作用の発見の遅れなど様々なリスクが報告されています。当然、合併症や疾患の発見が遅れる可能性も高くなります。実際、多くの医師は「薬の効果チェック、副作用チェックができなくなる可能性あり」「間隔をあけるとコントロール不良になる例があり、月1回の通院加療は必要」と「リフィルでは健康状態の観察等が困難」と指摘しています。こうした医療機関の診療実態を把握せずに「制度の趣旨を逸脱」と断じるのは報道の基本を逸脱しています。
 社説では、リフィル処方について、「米国や英国など欧米では広く浸透している仕組み」と述べ、あたかも日本の公的医療サービスが遅れているかのように述べていますが、こうした国々では薬剤師に「処方権」があり、責任が課されています。「社説」で例に挙げているイギリスでは、認定されたトレーニングプログラムを修了することが必須になっています(独立型処方権)。日本の薬剤師にはこの「処方権」がありません。こうした事実に全く触れずに、医療機関側の姿勢の問題として扱っていることは一方的な記載と言わざるを得ません。
 「二重線で機械的に消していたりする事例」について、厚生労働省が示した処方箋では「患者自身が勝手にリフィル処方にチェックを入れてもわからない」との指摘から、間違った処方箋にならないための手段というのが実情です。このような実情を踏まえた理解が必要です。
 そもそも、今回のリフィル処方箋の導入は、診療報酬改定率-0.1%(国費100億円)という財務省試算からも明らかなように、「骨太の方針」で掲げる医療・社会保障費抑制のための帳尻合わせで導入されたものです。コロナ禍で患者・国民の健康・疾病状態の悪化が続く中、国は患者・国民が安心して定期的に医療機関に受診できるように万全の対策こそ取るべきです。社会的弱者に寄り添うべきジャーナリズムが、コロナ禍で受診の抑制・間引きにつながるリフィル処方箋を推奨するのは本末転倒です。

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