全国保険医団体連合会(保団連)は「物価高騰に関する医療機関の影響調査」を実施した。
この調査は、保団連が全国の保険医協会・医会を通じて2025年2月3日から3月7日にかけて行ったもので、37都道府県から4,658件の回答があった。
愛知県では合計452件(無床診療所376件、有床診療所32件、病院44件)の回答があった。
以下、愛知県での集計結果について紹介する(回答の割合の表記は小数点以下を四捨五入)。
【6割超の医療機関が減収】
2024年1月と比較して、医療機関の収入が「下がった」との回答が全体の65%を占め、「上がった」13%、「変わらない」22%を大きく上回った(図1)。
「下がった」と回答した医療機関の減収の幅は「5%以上10%未満」が36%と多く、「20%以上」との回答も9%あった(図2)。「下がった」と回答した医療機関のうち43%の医療機関が10%以上の減収に苦しんでいる。


【9割超が診療報酬で補填できない】
光熱費・材料費等の高騰分を診療報酬改定で「補填できていない」との回答が93%を占め、補填できていると回答した医療機関はわずか7%に過ぎなかった。医療機関の収入の大半を占める保険診療は公定価格であり、急激な物価等の上昇分を患者に価格転嫁することはできず、医療機関にとって過重な負担となっている。人件費高騰に対応するため、80%の医療機関で賃上げを実施している一方、診療報酬改定での人件費の補填状況は「補填できていない」93%、「補填できている」7%となっている(図3)。

【アンケートに寄せられた意見】
●材料費や委託費は診療報酬と関係なく値上がりするが、収入は決められており自院の努力だけでは限界がある。
●診療報酬が低すぎて新技術の導入、機材の入れ替え、更新などがままならない。
●医療機器や建物等のメンテナンス費用も値上がりしている。オンラインやマイナンバー保険証などの導入費用が高い。
●医療DXに対応するための費用が高額だが、診療報酬が物価上昇を補填できていない。このままでは多くの医療機関が廃業に追い込まれる。本当にそれで良いのか?
●行政の度重なる急激なIT要請に対して小規模診療所は経済的、精神的負担が大きい。
●療養計画書の電子カルテ入力は、時間ばかり取られていて改悪でしかない。
●ベースアップ評価料分のみの賃上げでは人が集まらない。内科は実質的にマイナス改定である。
●コロナ禍で職員が流出しないよう、すでに賃上げを行っている。更なる賃上げは今後の経営が不安定になる。使用用途を決めた診療報酬は越権行為としか思えない。
●常勤15人、非常勤20人の病院並みの人員で患者さんを支援してきた。院長の月給を2年前に100万円下げて対応して来たが、診療報酬の引き下げで、更に厳しくなった。これ以上院長給与を下げることはできず、困っている。
●2018年と比較して年間100万程度収益が減っており、材料費も10~15%上昇している。補綴物維持管理料カットなど減少項目があり、増点項目はスタッフの負担が増す項目が多く、算定要件を満たすには時間が足りない。少しずつ減収し物価と人件費が上昇するなか、保険収入だけではやっていけない。
●薬の出荷規制で患者に提供できず、診療が厳しい。回復する兆しが無く、経営負担になっている。また薬の薬価差益がないため利益が取れない。
【基本診療料の大幅引き上げが不可欠】
「医療経営の現状や困りごと」について尋ねたところ、「低すぎる診療報酬」「物価・光熱費・諸経費の高騰」が多数を占め、その他にも「医療DX、デジタル化導入・維持のための費用負担」「生活習慣病管理料、ベースアップ評価料などの事務的負担の増大」「薬剤供給の不足」などの回答があった。
協会は今回の集計結果を国会行動や厚労省要請活動等に活用し、期中改定で基本診療料を中心とした診療報酬の大幅な引き上げや、緊急財政措置をもとめる取り組みを一層強めていく。