物価高騰影響調査 光熱費・人件費―診療報酬改定で補填できず89% 医療機関への財政措置を要望

 物価高騰による光熱費や食材費等の高騰が、国民生活とあらゆる業種の事業者に大きな影響を及ぼしている。愛知県保険医協会は、2024年9月に「物価高騰に関する医療機関の影響調査」を実施した。10月11日には調査結果を踏まえ、愛知県知事及び県内すべての市町村長に「物価高騰に対する医療機関への財政措置等を求める要望書」を提出した。「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金(以下、「重点支援交付金」)」等を活用してすべての医療機関への財政措置を求めた。また、国の2024年度補正予算に「重点支援交付金」が盛り込まれたことを受け、愛知県及び各市町村で医療機関への財政措置の実施を求め12月17日に緊急要望書を提出した。

「物価高騰に関する医療機関影響調査」のまとめ ~電気・ガス「上がった」9割、7割が収入減

 9月17日に開業医会員に対してFAX等で依頼し、27日までに513医療機関(協力率9%)から回答があった。物価高騰、人手不足と人件費の増加、医療DXによるシステム導入と維持費負担による三重苦が医院経営を圧迫している実態が鮮明になった。

物価高・人件費等、改定で補填できず

 回答があった513医療機関のうち、222件(43.3%)が内科診療所からの回答であった。電気・ガス料金の負担状況の変化の問いに対して、2023年8月と比較して90.5%が「上がった」と回答し、上り幅は「5~10%」の回答が最多で32.4%だった。上り幅「20%以上」の回答の医療機関も16.8%あった(グラフ1)

 

 診療報酬改定後の医療機関の収入変化の問いに対して、2023年6月と比較して72.7%が「下がった」と回答した。診療報酬の下がり幅は「5~10%」の回答が最多で43.5%だった。10%以上の減収となった医療機関も合計で40.1%だった(グラフ2)。特に内科診療所においては、生活習慣病管理料の再編によって大きな影響を受けている。

 

 光熱費・材料費・薬剤費・人件費等の経費を診療報酬で補填できているかどうかの問いに対して、88.6%が「補填できていない」と回答した(グラフ3)

補助金や診療報酬の大幅引き上げを

 自治体による補助金や助成金、支援金の拡充と申請の簡素化の要望が多く寄せられた。従業員の賃金引き上げのためにベースアップ評価料が新設されたが、申請の煩雑さ、患者からの理解が得られるかという不安感、職種によって対象とならない従業員がいる、診療報酬だけでは上昇分を補填できない等の問題点が挙げられている。また、新型コロナウィルス感染症が五類に移行してもなお、感染症対策のため同様に経費がかかり負担になっていることや、国がすすめる医療DXのためのシステム導入や維持に伴う費用も重なり経営を圧迫しており、すでに閉院した医療機関や廃業を検討している声も寄せられた。
 さらに物価や材料費・薬剤費・人件費の高騰・値上がりに対して、診療報酬の引き上げによる抜本的な対応を求める意見が多く寄せられた。物価高騰による医療機関への影響を踏まえれば、各自治体において「重点支援交付金」等を活用した補助の実施・継続、補助対象と額の拡大が必要であるとともに、政府においては現場の声を反映させた診療報酬改定で抜本的な対応が、緊急に求められる。

~アンケートに寄せられた意見~

  • 物価高騰対策支援金を出してほしい。国は診療報酬大幅引き上げを。
  • 補助金制度の申請など簡素化してほしい。
  • 電気代を始めとした物価高騰などは、病院経営に大きな影響を及ぼしているため、持続可能な病院経営のために、地方創生臨時交付金等による継続的な財政措置を望む。
  • 医療機関など地域のインフラ施設は光熱費などの補助、減額などの仕組みがほしい。光熱費、人件費は、医療の安全に直結する。
  • 光熱費、材料費、人件費は概ね10%〜20%上昇している。特に10月からの値上げ幅が著しく、1%未満の増加率に留まる診療報酬改定では経営状況は非常に苦しい。
  • 一時的な補助金・助成金では足りず、さらなる診療報酬の引き上げが必要。一般企業と異なり、企業努力のみでは、物価や人件費高騰に対応できない。
  • 人件費・光熱費・材料費の上昇分を加味した診療報酬改定をしてほしい。
  • ベースアップ評価料では、事務職の人件費の補填には全く不足である。初診料・再診料を増額しなければ、経営状況は悪くなる一方である。
  • 診療報酬をあげてほしい。このままでは医師の高齢化と政府によるデジタル化の圧力が強く廃業も視野に入れねばならなくなった。すでに何件もの開業医が閉院している。
  • 実質マイナス改定であったうえ、生活習慣病管理料の療養計画書の手間、マイナ保険証の案内の手間により、人手がさらにかかるようになり、人員を補充した。必要経費の増加により減収となった。
  • ベースアップ評価料や医療DX推進体制整備加算等の新設項目を算定しても患者単価は横ばい、物価上昇やそれによる人件費増により収支ベースでは前年より減少となった。
  • 人件費、物価高なのに、診療報酬は減っている。届出ばかりで、医療とは何?という感じ。オンライン、マイナンバーでやることは増え、そのための費用もかさむ。
  • 電子カルテの更新を予定しているが、物価の高騰や人件費の上昇による費用の増加が見込まれるため、経営状況への影響を懸念している。
  • マイナンバーカード、電子処方箋など、人手や手間ばかりが増えることを続けている。医療の現場の人手や手間が削減されるようにやってほしい。
  • 売り上げは、コロナ以前と比べると30%以上低下しており、経営が難しくなっている。
  • コロナが五類になったがコロナそのものが安全になった訳ではないため、感染対策は二類と同じような対応が必要で持ち出しが多い。
  • 診療報酬が実質下がったのに、人件費は上げていかなくてはならない。資格認証など、新システム導入に伴う費用も重なり、経営を圧迫している。
  • 消費税が負担になっている。利益率3%未満で、購入物品が10%の消費税。保険診療は赤字になってしまう。
  • 雀の涙のような加算を取るための申請書類・手続きが多すぎて個人開業医では対応できない。
  • 診療報酬請求がどんどん繁雑になり、働き方改革どころか長時間労働になっている。見直しが必要。
  • 人手不足が続き人材募集、手数料等に経費がかかりすぎる。事務員年俸の25%の手数料、看護師年俸の20%の手数料を支払った。
  • 人材紹介会社の紹介料金を規制してほしい。
  • ハローワークの機能を拡大してほしい。紹介会社に頼らなくてよいようにしてほしい。