2020年9月10日

マイナンバーカードでのオンライン資格確認―システムの導入は任意

マイナンバーカードでのオンライン資格確認―システムの導入は任意

政府は2021年3月からマイナンバーカードを健康保険証としても利用できるようにし、医療機関の窓口でのオンライン資格確認をスタートさせようとしている。
厚労省は「令和3年3月からマイナンバーカードを健康保険証として持参する患者が増えてきます。全ての患者が診療等を受けられるよう準備をお願いします」としている。支払基金からは「今すぐ登録! オンライン資格確認導入に向けたご案内」が届いた。事業を担う支払基金では、八月七日から顔認証付きカードリーダーの申し込み受け付けが始まった。
一方、保険者は政府が作成したリーフレット「マイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになります!」を被保険者に配布している。同様のテレビCM(政府広報)も流されている。患者はすべての医療機関でマイナンバーカードが保険証として使えると思い、医療現場では対応が混乱する恐れがある。

 

カードリーダーとオンライン請求回線で資格を確認
オンライン資格確認システムを導入する場合、顔認証付きカードリーダー(以下、カードリーダー)が支払基金から無償で提供される(病院は3台まで、診療所は1台)。8月7日からは支払基金の「オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト」にアカウント登録すれば、カードリーダーの申し込みをすることができるようになった。
オンライン資格確認をする際は、レセプトのオンライン請求の設備、回線を利用する。ほとんどの病院はオンライン請求をしているが、医科診療所でのオンライン請求は68%、歯科診療所では19%にとどまっており(支払基金2020年5月診療分)、オンライン接続用パソコン、オンライン請求回線の導入など新たなインフラ整備が必要になる。さらに、受付で職員が利用するオンライン資格確認端末(パソコン)の購入、レセプトコンピュータ、電子カルテシステム等の改修・アプリケーションに組み込むパッケージソフトの購入等が必要だ。

補助金はカードリーダーでの資格確認体制が前提
費用に対しては補助金が給付される。診療所の場合は32万1千円(税込み費用42万9千円を上限に、その四分の三を補助)を上限に補助されるので、医療機関の負担は10万円程度で済む。ただし、導入後のセキュリティ対策や故障対応などシステム維持に伴う費用は補助の対象外となる。補助金はシステム改修、オンライン資格確認の導入準備が完了した後に支払基金に申請することになり、11月以降の申請とされている(2023年6月末まで)。補助金が給付されるのは、カードリーダーを使ったオンライン資格確認を行うことが前提になる。

カードの初回登録が必要 窓口業務停滞も
マイナンバーカードを保険証として使うためには、あらかじめ被保険者がマイナポータルで初回登録の手続きをすることが必要だ。初回登録をしていない患者が受診した場合には、医療機関の窓口のカードリーダーで初回登録ができるとされている。その際は顔認証または暗証番号(4桁)による本人確認が必要で、カード利用に不慣れな患者が来院した時などは職員が初回登録にかかりきりになるなど、窓口業務が停滞する恐れがある。

顔認証で本人確認 番号漏洩のリスクも
初回登録が済んだマイナーバーカードを患者が持ってきた場合、患者自らがマイナンバーカードを受付のカードリーダーに置いてICチップや顔写真を読み取らせる操作を行うとともに、カードリーダーに内蔵されたカメラに顔を映し、マイナンバーカードの顔写真と照合して本人確認を行う。目視や暗証番号による本人確認も可とされている。
医療機関ではマイナンバーカードは預からず、患者自身がカードリーダーに置くとされているが、操作に不慣れな人や身体が不自由な人には手助けをせざるを得ない。医療機関にマイナンバーカードが持ち込まれれば、マイナンバーカードの紛失や番号漏洩などのリスクが生じる。
カードリーダーがマイナンバーカードのICチップから読み取った個人識別情報は、オンライン請求回線を通じて審査支払機関(支払基金、国保中央会)が管理する被保険者の資格情報(氏名、生年月日、保険加入情報、負担割合等)の履歴と照会される。照会結果の返信を受けた医療機関が患者の資格情報を確認するという流れになる。

保険証でのオンライン資格確認も可
オンライン資格確認は義務ではない。現在の健康保険証がなくなるわけではないので、保険証で資格確認をすることができる(2021年5月から開始)。厚労省はマイナンバーカードによるオンライン資格確認のメリットとして「保険証の入力の手間が削減される」「資格過誤によるレセプト返戻が減って窓口業務が削減される」「限度額適用認定証等の情報を取得できる」などとしている。しかし、オンライン資格確認は保険証でもできる。保険証の記号番号等をオンライン資格確認端末に入力すれば、マイナンバーカードによる資格確認と同じ流れになる。
秋頃からは、被保険者番号を個人単位にするため、新規発行分から個人単位の二桁番号が付番される。2021年3月からオンライン資格確認が始まれば、医療機関の窓口では、マイナンバーカードで受診する患者と保険証で受診する患者、さらに保険証は2桁の個人番号があるものとないものに分かれ、受付がとても煩雑になる。顔認証システムで、カードリーダーが取り込んだ顔写真と、カメラに写った患者本人の顔が一致しないと判定されれば受付が混乱する。

導入については慎重に検討を
「今までどおり保険証で資格確認をする予定だけど、この機会にオンライン請求回線を導入したいので、補助金の活用を検討したい」という声もある。しかし、支払基金が8月7日付の「顔認証付きカードリーダー申込受付開始のお知らせ」で「顔認証付きカードリーダーの提供を受けたにもかかわらず、結果として、オンライン資格確認を導入しなかった場合、顔認証付きカードリーダーの費用相当額を返還いただくこととなります」とある。補助金を活用した場合は、カードリーダーを設置して、マイナンバーカードで受診する患者のオンライン資格確認に対応できる体制を備えることが必要だ。
医療機関には多くの業者からオンライン資格確認システム構築の案内が寄せられているが、医院の受付業務の流れやレセコン、電子カルテシステムとの関連等を十分考慮して導入を検討したい。
 

オンライン資格確認は義務ではない今までどおり保険証で資格確認を
マイナンバーカードによるオンライン資格確認は、カードの紛失や番号漏洩などのリスクが高まり、受付での混乱、事務負担増が懸念される。患者には「今までどおり保険証をご持参ください」と案内するとともに、カードリーダーの申し込み、インフラ整備、補助金の申請については慎重に検討いただきたい。
協会・保団連は患者の個人情報を守り、医療機関の窓口での混乱を回避するため、マイナンバーカードの保険証利用に反対している。窓口ポスター「受診時には今までどおり『保険証』をご提示ください マイナンバーカードは不要です」(全国保険医新聞7月25日号に同封・ポスターはこちら)を作成したので活用いただきたい。

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