2019年5月26日

社会保障改革-自己責任の「予防」は社会保障からの排除

(愛知保険医新聞2019年5月25日号)

政府は「全世代型社会保障改革」の大きな柱として、疾病予防や介護予防を掲げている。
茂木経済再生担当大臣・全世代型社会保障改革担当兼務の下で、未来投資会議が開かれ、健康・予防の取り組みに関して保険者の努力に応じた予算の配分などの強化を提言している。生活習慣病の重症化予防や歯科健診やがん検診等の受診率の向上等を進めた国保保険者には支援金の配点割合を高めることや、民間サービスの活用、個人のヘルスケアポイント付与を組み合わせることが重視されているが、キーワードは「予防・健康管理」「自立」であり、医療費・介護費用の抑制を企図している。悪い生活習慣が病気の原因とする健康自己責任論でもある。
しかし、「予防」で医療・介護費用を抑制できるのかは、2006年から実施されたメタボ健診など生活習慣病対策の医療費抑制効果が、当初見込みの2兆円の1%程度に過ぎず、しかも対策費の方が抑制額を上回ったことが知られているように、費用削減効果はほとんど確認されず、逆に健康改善による医療費削減は長生きによる医療費増加で相殺され、予防対策の費用も含めれば長期的に医療費は増えるなどと批判があがっている。
また、このような健康自己責任論は、社会保障施策の実施は国の責任であると明記している憲法の規定にも反する。そして、自己責任だからと社会保障から排除してしまうのは、企業の保険料負担を免除することにもつながり、問題である。
さらに、財務省は、財政制度等審議会に、医療費の増加の半分は高齢化など人口動態の変化によるとした上で、残り半分について「診療報酬改定のほか、新規の医薬品や医療技術の保険収載、医師や医療機関の増加などによる影響も指摘し、これらについて政策的にどのように対応していくか検討が必要」(4月23日)と指摘して、診療報酬改定や医療提供体制への関与をすることで、医療費抑制を進める構えを見せている。
年金制度についても、厚生年金の加入期間や受給開始年齢を70歳以降に延長することが検討されている。雇用年齢も連動して企業への雇用義務づけを70歳まで引き上げることなどが検討されている。税金・保険料は長く納めさせ、年金はできるだけ遅くからしか受け取れない、こんな仕組みでは、安心の老後生活設計が成り立たない。

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