2018年2月17日

税負担の公平-分離課税を総合・累進課税に

(愛知保険医新聞2018年2月15日号)

ナポレオン戦争で戦費調達のためにイギリスで考え出された源泉徴収制度は、ヒットラー政権下のナチスドイツで本格的に運用された。源泉徴収制度は、効果的で効率的な徴税手続きといえるが、その一方で納税者の納税実感を薄れさせ、国民の税、ひいては政治に対する関心を奪い取るという為政者にとって都合のよい制度である。多くの給与生活者は自分がどれだけ税を納めているか意識せずに生活をしている。しかし、個人開業医や医療法人経営者は、大いなる痛税感を感じているはずだ。
税金とは言うまでもなく、我々が生活をして行く上で必要な公的活動やサービス、施設などのために国民が出し合って支えていこうというもので、納税は国民の義務である。また、税金には応能負担原則があり、高所得者には高い負担、低所得者には低い負担を課す。また、給与所得などの勤労所得と、利子・配当・不動産などの資産所得とでは、質的に税負担能力が違うので、前者には低い負担を、後者には高い負担を課すのが原則である。
しかし、今の日本ではこの応能負担原則が正常に働いているのであろうか。所得税・住民税、相続税・贈与税の最高税率は引き下げられ、大企業は法人税率の引き下げによって多額の内部留保金を貯め込んでいる。一方で消費税率は引き上げられ、負担公平原則とは逆方向に進んでいるように見える。
日本の場合、分離課税制度がある。本来、どんな収入でも個人の収入は所得とし総合して課税すれば、すべては所得税として公平に課税できることになる。あとは累進課税の税率だけの問題だ。しかし、この分離課税制度では、預貯金などの利子所得や株や投資信託などの配当所得、株式や不動産などの譲渡所得等々は他の所得とは分離され、約20%などという低い税率に抑えられている。例えば、2億4千万円の役員報酬を得ているある企業経営者が株式配当・譲渡益で100億円の所得を得た場合、総合課税であれば住民税を含み所得税を56億4千万円払わなければならないところ、今の日本の税制では21億3千万円払うだけで済んでしまう。これで本当に応能負担原則が働いているといえるのであろうか。
現在の日本では貧困格差が広がっている。税金の公平公正な徴税システムが機能していないことや税の使い方の問題が、この根源にあるのではないだろうか。今一度、税金とは何かを考えてみたいものである。

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