交通事故に関わる歯科医療の留意点
交通事故による傷害であっても、治療費は治療を受けたものが支払う義務を負う。従って医療費の請求は窓口で患者本人に行い、直接支払いを受けるのが原則である。この場合、患者は支払った医療費について、加害者または保険会社に請求して支払いを受ける。
ただし、患者が窓口で医療費の全額を負担することが困難な場合などもあるため、以下の様な請求方法がある。どの様な請求方法を選択するにせよ、医療費が確実に支払われるよう、事前に支払者や支払方法を確認しておくことが重要である。また、治癒までにかかる概ねの治療費用などについても知らせておくと、後日トラブルが起こりにくい。
なお、交通事故の治療は原則自費の扱いとなるが、患者が被保険者証を提示し保険診療を求めた場合は保険診療として取り扱うこともできる。この場合は、保険者が過失割合に応じて加害者に請求することとなる。
[医療費の請求方法]
1.患者(被害者)から直接自費徴収
窓口で患者から直接支払いを受ける方法。支払った医療費については、患者が直接、加害者または保険会社に請求する。
2.被害者請求の「医療費の受任請求」
医療機関が患者から医療費に関する請求・受領の委任状をとり、直接保険会社に請求し、直接支払いをうける方法。請求にあたっては、下記(1)~(6)までの書類が必要となる。(1)~(4)については医療機関で準備する。
(1)支払請求書兼支払指図書
(2)請求者の印鑑証明書
(3)診断書
(4)診療報酬明細書
(5)交通事故証明書
(6)事故発生状況報告書
3.被害者請求の「医療費の支払指図」
患者が保険会社に対して医療費を含めた保険金を請求し、医療費部分については医療機関に支払うように指図する方法。請求にあたっては下記(1)~(6)までの書類が必要となる。(3)および(4)については医療機関で準備する。
(1)支払請求書兼支払指図書
(2)請求者(患者)の印鑑証明書
(3)診断書
(4)診療報酬明細書
(5)交通事故証明書
(6)事故発生状況報告書
4.任意保険の一括払い
任意保険会社が、強制保険会社の支払額を立て替えて、任意保険の金額とまとめて支払う方法。この方法を利用する場合は、任意保険会社の担当者から、医療機関に申し出がある。
5.社保または国保を使用した保険診療(第三者行為)
交通事故でも、患者に重大な過失がある場合などは、自賠責保険や任意保険から十分な補償が受けられない場合がある。その場合、健康保険を利用する方が患者の負担が少なくなる場合がある。
(1)医療機関では、患者から保険診療を求められた場合は保険診療で行う。保険診療であるため、窓口では一部負担金を診療の都度、患者から徴収する。
(2)医療機関は、患者に対して「第三者行為届」を速やかに保険者に提出するよう指導する。
[第三者行為届の記載事項]
・被害の事実
・第三者の住所・氏名
・傷病の状況 など
(添付書類)
・警察署(自動車安全運転センター事務所)の事故証明書
・示談書(示談成立の場合のみ) など
(3)請求に際しては、レセプトの「特記事項」欄に、「第三」(レセコンの場合は「10 第三」)と記載する。
(4)診療内容は保険給付の範囲であるため、保険外の歯冠修復物(メタルボンド等)や補綴物(金属床部分義歯等)は給付対象とならない。
6.通勤災害を含む労災保険診療
職務中または通勤途上の交通事故の場合は、通常は自賠責を優先させて利用し、次いで労災保険を適用することになっている。しかし、患者の過失割合が非常に高い場合など、事情によっては労災保険を最初から適用することもできる。
7.ひき逃げ・無保険事故の診療
加害者を特定できない事故(ひき逃げ・あて逃げ)や無保険事故および盗難車による事故の被害者は「政府保障事業制度」が受けられる。
この制度は、患者の健康保険を使っても不足する場合に適用される。給付の対象は、一部負担金と慰謝料、休業損害。
保障事業は自賠責保険と相違する点もあるため、詳細は「日本損害保険協会そんぽADRセンター」(代表電話0570-022808)に相談されたい。