(愛知保険医新聞2021年6月5日号)
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。入院が必要な患者が入院できない事態も起きている。
こうした中でも、政府は「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」を国会で可決成立させた。
同法では、医療計画に「新興感染症等への対応」を追加する一方で、地域医療構想の実現のためにとして、医療機関が病床を削減すれば全額国費の財政支援を行うことを法制化する。病床削減を加速化させることはコロナ禍で課題が明らかになった医療提供体制の強化に逆行する。また、病床削減の財源に社会保障のためとしてきた消費税を充てる点でも二重で許しがたい内容である。
国の病床削減の方針は一貫しており、再編統合を求めた公立・公的病院リストも撤回されていない。再検証対象の436医療機関のうち、2021年1月末時点で250医療機関がコロナ患者を「受け入れ可能」とし、190医療機関はコロナ患者の治療にあたっている。コロナ患者受け入れに公的医療機関は中心的な役割を果たしている。
愛知県保険医協会の新型コロナ影響会員アンケートには「地域医療構想で病床再編や役割変更が求められ、新型コロナウイルス感染拡大ではそれがなかったように役割だけ求められることに矛盾を感じる」との声が寄せられている。地域医療構想の必要病床数はパンデミックを想定していない。コロナ禍を受けて必要病床数の再検証は必須だ。
コロナ病床拡大が進まない背景には医師・看護師などの医療従事者の確保が困難である点が大きい。国は人口当たりの病床数が諸外国に比べて多く医療従事者が手薄になり、長時間労働などの問題を引き起こしていると病床削減の必要性を説く。しかし、日本の総病床の約四割を占める精神病床・療養病床は、欧米では病院病床としてカウントされておらず、病床が多いとの比較は不正確だ。病床削減よりもOECDの平均から見れば13万人少ない医師など医療従事者の確保が最優先だ。医学部の定員削減方針はやめ、医師の増員へ方針転換することを求める。
国が行ってきた病床削減、医師数の抑制、低診療報酬や消費税損税の医療機関への押し付けは、医療現場のパンデミック対応の余力を確実に削いでいる。医療現場にはコロナパンデミックへの対応などで負担が集中している。医療従事者の献身を前提とした感染症対策は改めるべきだ。