個別指導ではカルテ記載や保険請求について、さまざまな指摘がされている。カルテは診療報酬の点数算定の根拠になるものであり、また医療行為などの記録として医療訴訟などの際の証拠ともなる。適正なカルテ記載は、保険医にとっては最も重要な味方となる。今回、個別指導時の指摘事項から、カルテ記載の留意点を紹介する。
カルテ記載の基本をおさえる
カルテは保険請求の根拠であることを認識し、必要事項の記載を十分に行うことが大切である。カルテ記載の基本は、診療行為の手順通りに行間を空けず記載し、一行枠内に複数行の記載とならないように留意する。独自の略称などは使用せず、第三者にも判読できるような記載が必要であり、カルテの修正も、修正液・塗りつぶし・貼紙といった方法ではなく、修正した内容がわかるように、二重線を引いて修正する。また、コンピューターなどOA機器によりカルテを作成する場合や、複数の歯科医師により治療を行っている場合は、診療を担当した歯科医師が署名または記名押印を行う。
保険と自費のカルテは別々に区分することになっている。保険から自費に移行した場合は、保険のカルテに自費へ移行した旨を記載する。なお、介護保険の居宅療養管理指導費に関わる記載は、該当箇所を黒枠で囲んで医療保険と区分して記載することで差し支えない。
傷病名欄、転記欄も確実な記載を
1号カルテの傷病名は、症状所見、検査結果などから判断し、適切な診断名を付与する必要がある。同一の病名であれば一行にまとめて記載してもよいが、特に歯周疾患などでは、歯周疾患の進行の度合を省略することなく、P1、P2、P3などの部位ごとに分けて記載することが必要である。また、病名が変更になった場合には、「C2→急化Pul」などのように記載する。長期に渡って治療中の患者などは、特に日常的な病名整理が必要となる。
開始欄・終了欄は、それぞれの傷病名ごとに着手した年月日、終了した年月日を記載する。記載漏れの指摘が多い転記欄は、「治癒・中止・転医・死亡」などの記載を忘れずに行う。
主訴欄は、初診時の患者の訴えを患者の言葉で記載し、既往歴や服薬情報など参考になる事項も記載しておくことや、歯式図の欄を十分活用することも心がけたい。なお、再初診の場合の主訴は、2号カルテの再初診日の欄に記載する。
症状、所見、検査結果、指導内容など漏らさずに
初診の際には、現症や現病歴など、症状や所見、検査結果、治療方針などを記載する。また患者に対して行った指導や処置などの内容のほかに、治療に際して使用した保険医療材料の種別・使用材料・使用金属・使用薬剤の記載もしっかり行う。特に算定点数が使用材料などによって異なる項目は、特に明確に記載を行う必要がある。また、診療日ごとに負担金徴収額を記入する。
【医学管理】
歯科疾患管理料では、患者に提供した管理計画書の写しをカルテに添付することが必要となる。文書提供を行わない場合は、管理計画の内容(歯科疾患と関連性のある生活習慣の状況と患者の基本状況・生活習慣の改善目標・口腔内の状態・必要に応じて実施した検査結果などの要点・歯科疾患と全身の健康との関係・治療方針の概要・保険医療機関名・当該管理の担当歯科医師名など)などをカルテに記載することになっている。
診療情報提供料(Ⅰ)や歯科衛生実地指導料などは、患者に交付または提供した文書の写しをカルテに添付することが必要である。歯科衛生実地指導料は歯科衛生士に指示した指導内容などの要点を記載することも忘れずに行う。
新製有床義歯管理料は患者に提供した文書(欠損の状態・指導内容などの要点、保険医療機関名と担当歯科医師名など)の写しをカルテに添付し、提供文書の内容以外に必要な管理事項がある場合はその要点を記載する。また、歯科口腔リハビリテーション料1では義歯の調整方法および調整部位、指導内容の要点を記載する。
【在宅医療】
歯科訪問診療を行う場合は、患者の病状に基づいた訪問診療の計画を定め、カルテに記載する必要がある。計画書の写しをカルテに添付してもよい。訪問診療を開始した時、訪問先を変更した場合は、「自宅、介護老健施設○○苑など」の訪問先名も記載する。その他、訪問診療の開始・終了時刻、常時携行している切削器具名、歯科訪問診療補助加算算定時の補助を行った歯科衛生士の氏名の記載漏れも指導時には指摘されている。また、歯科診療特別対応加算の「算定日」における患者の状態について未記載の指摘も多いので、チェックしておきたい。
訪問歯科衛生指導を行った際には、患者・家族への指導内容を文書提供し、その写しをカルテに添付するとともに、歯科衛生士に指示した内容、開始及び終了時刻、訪問先名(訪衛指の開始日、あるいは訪問先が変更となった場合)、患者の状態の要点(歯科衛生士単独の場合)を記載する必要がある。
【検査・画像診断】
個別指導では、EMRやS培、ChB、GoAなどの検査や、歯周病検査の結果が記載漏れ・不十分との指摘も多い。画像診断では部位・所見の記載も行うことが求められる。診断の根拠や、その後の治療にかかわる事項であることに留意したい。
【処置・手術】
処置では、使用した保険医療材料名や処置内容の記載を行うことが求められる。歯冠修復物や補綴物の除去など種別によって算定点数が異なる場合は、具体的な除去物の記載も必要である。
手術では、手術部位・症状・所見・手術内容(術式)の要点の記載漏れが指摘されている。難抜歯の際は、根の湾曲や骨の癒着など歯の状態や、切開を行った際は術式(切開線の長さなど、必要であれば図示する)なども漏らさず記載しておきたい。投薬・注射・麻酔・特定薬剤等は、薬剤名、濃度、規格単位、実際の使用量なども実態に応じた記載をする。なお、処方箋を出す場合であっても、処方内容の記載を。
検査を実施し計画的に治療をすすめる歯周治療については、「症状・所見の記載が乏しく、診断根拠や治療方針が不明確。画一的な指導内容である」との指摘が多い。P処やP基処では使用した薬剤名の記載、機械的歯面清掃処置では歯科衛生士に対して歯科医師が指示した内容や、実施した歯科衛生士名の記載も必要である。また歯冠修復、ブリッジ、有床義歯と並行して歯周治療を行う場合の、治療の必要性の記載などにも留意したい。
【歯冠修復・欠損補綴】
補綴時診断料算定の際は、製作を予定している部位、欠損部の状態、欠損補綴物の名称及び設計などについて記載する必要がある。また、クラウン・ブリッジ維持管理料では、患者への提供文書の控えをカルテに添付することが求められる。
充填物、歯冠修復物については、その種類や使用金属名、窩洞形態、インレーセットや充填の時は「面」の記載が必要である。印象やバイトの材料名や接着材料名なども忘れずに記載する。
義歯修理を行った場合は、破折部位、修理内容を記載する。また歯科技工物の製作については、技工指示書の内容とカルテに記載された設計が一致していないことが指摘されている。部位や使用材料、金属、設計内容については、技工指示書、製作された技工物(納品伝票)、保険請求(レセプト)とカルテの記載が一致していなくてはならない。もし、設計や使用材料に変更があった場合などは、その記録をカルテに反映しておく必要がある。