医師・歯科医師九条の会がつどい
9月9日(土)、「あいち医師・歯科医師九条の会」は34回目の憲法のつどいを協会伏見会議室で開き、32人が参加した。
講師には三宅裕一郎氏(日本福祉大学教授、憲法学)を迎え、「どうなる憲法、どうする憲法~新たな段階の改憲の危機と私たちの運動課題~」のテーマで講演した。
三宅氏は、昨年12月の安保関連三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)によって、敵基地攻撃能力の保有が進められようとしているが、米中両国の対立の構図の中で進んでいることを、まず抑えておくべきと述べた。
敵基地攻撃能力保有
上記安保関連三文書が打ち出したポイントの第一に、敵基地攻撃能力の保有を挙げた。これは「専守防衛の考え方を変更するものではなく、先制攻撃を認めるものではない」と国は説明しているが、「相手の領域において我が国が有効な反撃を加えることを可能とする」もので、自衛隊の役割やルールに変更がないとしつつも、実際には換骨奪胎させてアメリカのニーズに合わせた軍事オプションを拡大する内容だと述べた。
防衛予算大幅増
第二は、今後五年間で防衛予算を43兆円、GDP比2%増を掲げていることを挙げた。防衛費GDP比2%は、アメリカがNATO加盟国に求めた水準だが、実際には加盟国の半数以下しか達成していないものを、日本が率先して拡大しようとしていると述べた。
アメリカからの軍事負担要求
三宅氏は、安保三文書の根底にはアメリカの軍事負担を、日本を始めとする同盟国に肩代わりさせる強いニーズが貫流していると述べて、「インド太平洋戦略(2022年2月)」では、対中包囲網における日本を始めとする同盟国の軍事的負担を求めており、アメリカの「2022年国家防衛戦略」でも、インド太平洋地域の安全保障で日本との同盟関係を「現実に合わせ統合させる」ことを明記していると紹介した。
そして、「敵基地攻撃能力」論をめぐり、日本政府は同能力の保有を一貫して否定してきたと述べた。今年1月の時点でも岸田首相は、そうした政府の立場を変更していないと答弁しており、敵基地攻撃能力の保有を進めようとする政策との矛盾があると指摘した。さらに、自民党の提言(2022年)では、「反撃能力の対象範囲は、相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」とし、この反撃能力はアメリカ戦略問題研究所の報告(2020年)に、すでに盛り込まれており、アメリカ発の要求の具体化であるとした。
専守防衛の考え方と敵基地攻撃能力の間の矛盾という点でも、今後専守防衛の考え方自体も見直しの俎上にのぼることになり、「自衛」の内容は限りなく違憲の「先制攻撃」に接近すると警鐘を鳴らした。
軍事によらない平和の実現を
三宅氏は、「軍事によらない平和の実現のために」として、戦争は「政治」が行った決断(失敗)であり、軍事を動かす「政治」を私たちが選挙で選択し、しっかり判断し行動することの重要性を強調した。その際、軍事を動かすことでもたらされる結果を析出し、例えば敵基地攻撃の場合、相手側からの反撃でどれだけ甚大な被害を被ることになるのかということを、共感の得られる表現力でいかに広く市民間で伝達し共有することができるかが重要と述べた。
ひとたび戦争が始まれば、医療など民間も当事者になるというリアルを見る必要も指摘。自衛隊・米軍の活動確保のために、医療機関や医療従事者の活用も位置づけられており、軍事優先で動員されることになると述べた。
最後に、「不断の外交努力」こそが持続可能な安全保障につながるという視点も重要であり、憲法九条に基づく外交努力や東アジアにおける包括的な安全保障体制構築の必要性を指摘した。