設立趣旨

なぜ今「保険で良い歯科医療を」運動をすすめるのか

国は保険制度発足当初から一貫して歯科医療軽視の政策(保険給付の制限と低技術料政策)をとり続け、保険診療だけではまともな治療ができず、歯科医院の経営も成り立たない状況においてきました。「保険で良い入れ歯を」の国民世論や歯科医療担当者の運動で部分的な改善が行われたこともありますが、1990年代の中頃から逆戻りがはじまりました。2006年4月の診療報酬改定では点数の大幅引き下げや文書提供の義務化等歯科医師の負担を大きく増大させる改定が行われました。保険診療に対する歯科医の診療意欲は大幅に削がれ、歯科界が再び自費診療、混合診療へ傾斜を強めていくことが懸念されます。さらに国が目指す医療制度は、公的医療のカバーする部分は最小限に抑え、それを超える部分は民間保険などで対応するという米国型医療への転換を意味しています。2006年10月に実施された「保険外併用療養費」制度の対象部分は保険外給付であり、制度として拡大することは「必要な医療は保険でカバーする」という国民皆保険制度の原則を崩すことになりかねません。

おいしく、楽しく食べることは人生を豊かにするとともに健康の基本でもあります。これを支えるのが口腔の健康です。お口の健康を保障するためには保険で安心して歯科医療を受けられることが望まれます。いま求められているのは、大企業優遇政策でなく、消費税減税や個人消費を高めるための社会保障の拡充であることは多くの研究機関、研究者も提唱しております。「保険で良い歯科医療を」求める活動は社会保障拡充の上でもますます重要な課題となっています。

1992年にNHKが放映した「噛めない、話せない、笑えない入れ歯の話し」は、その原因が低い保険点数だと指摘し、その解決のために入れ歯の保険点数を2倍に引き上げてはとの提言がされ大きな反響をよびました。これがきっかけとなり国会や各自治体でこの問題がとりあげられ、全国の半数以上の自治体が意見書を上げるなど大きな国民運動となり入れ歯の診療報酬改善がはかられました。それと同時に「入れ歯の保険点数を2倍にすれば本当によい入れ歯ができるのか」という疑問の声もよせられ「保険で良い入れ歯」をめぐって、患者と歯科医療従事者相互の立場をのべあい、ともに考え運動していく場として「保険で良い入れ歯を」全国連絡会が保団連、民医連、年金者組合、新日本婦人の会等を中心に結成されました。そして、2000年6月に運動のさらなる発展をめざし「保険で良い歯科医療を」全国連絡会に名称を変更し活動を続けています。「保険で良い歯科医療を」全国連絡会は活動をになう組織を全国に広げていく運動にとりくんでいますが、現在地方組織が機能しているのは東京、千葉の2つの組織のみとなっています。

「保険で良い歯科医療を」全国連絡会が2006年8月に実施した歯科医療に関する患者調査では「歯科医療への要望」でもっとも高いものは「保険に利く範囲を広げてほしい」79.1%であり、続いて「夜間や休日も治療が受けられるようにしてほしい」53.8%とお金の心配なくいつでもどこでも保険で安心して歯科治療を受けたいというのが患者の最も強い要望となっています。

歯科診療報酬は長い間差額徴収が行われ、とくに欠損補綴部門では多数の医療が差額徴収とされました。差額徴収が行われていた時期は欠損補綴などの保険点数は放置され、76年に差額徴収が社会問題化し廃止された後も、抜本的な引き上げと改善は行われてきませんでした。同時にすでに全国的に一般化している治療行為も保険導入されず、歯科医療機関としてもよりよい医療を提供することと歯科医院の経営安定化のために自費治療が行われてきました。このため国民の歯科治療に対する「お金がかかる」とのイメージは払拭されていません。また、自費治療を強調するあまり「保険の医療は必要最低限の治療内容」というイメージも固定化されているようです。 国民に納得される明瞭な歯科保険医療制度を確立するうえでも、保険適用範囲の拡大は必要不可欠なものです。

「保険で良い歯科医療を」運動は患者の立場からみれば、これまで自費診療であったものが保険に導入され、治療費全額負担であったものが一部負担のみで良いわけで、誰にでも歓迎されるものです。歯科担当者にとっても、十分な評価がされた診療報酬であれば、安心して治療に専念できることでしょう。

しかし、これまで低診療報酬に抑えられ、さらに医療費抑制が推し進められようとしているなかで、これまで自費であった治療行為を保険に導入することは、かなりの低点数にされてしまうなどの危惧があることも当然です。また、最善の治療技術に対して保険制度の中で一律の料金となってしまうことにも疑問があるのも事実です。

医療の質は保険診療の内容で決まります。歯科保険点数は20年前からほとんど変わっていません。また保険医療はその時々の必要な医療を保障するものとされており、医療技術の発展、国民の生活水準に合わせて変わるべきものですが、医療担当者自身がこうした認識をもって要求を組み上げていくことが求められています。

またこれまでの「保険で良い歯科医療を」のネーミングも「現在の保険診療では医療担当者が手抜きをしているような印象を受ける、保険でも最善の診療を行っている」などの意見もあり、歯科担当者の協力を得るためにはネーミング自体も実態にあったものにしていくことで「保険でより良い歯科医療を」として提案をするものです。

社会保障制度の充実は国民の第一義的課題となっています。歯科医療の発展のためにも貧富の差を持ち込み、受診抑制をすすめるような混合診療の拡大などの方向は持ち込むべきではありません。自己責任論的な問題のとりあげも口腔衛生・口腔ケアについての教育や社会環境が十分に整っていない現在の状況のなかでは問題をすりかえるだけで解決にはなりません。

今必要な運動は、社会保障制度の充実の中で、歯科保険枠の拡大を行うことにあります。しかも保険料の拡大という自己負担の増大でなく、公的補助の拡大ということが大切です。また疾病保険とは別に口腔管理についての公的責任をあきらかにしていくことも必要です。

しかし、政府は公的医療費をさらに抑制しようとしています。社会保障の充実、公的保険補助の拡大は歯科担当者が声を大にしても、自らの利益拡大としてしかとらえられず実現が難しいのも事実です。これを拡大していくには国民の側からの要求として声をあげてもらうことしかありません、最近ではジャーナリストや医療評論家なども一様に国民の運動につなげる以外に改善の方向はないと発言しています。その理論的な部分の啓蒙を歯科担当者がしっかりささえていくという努力が必要です。そのためには、歯科担当者が社会保障制度の充実と現在の歯科保険制度の矛盾と改善方向を国民との対話の中でひろげ国民・患者の側から歯科医療改善の運動を行う組織確立以外にありません。その中心となるのが「保険でより良い歯科医療を」運動です。

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