より良い医療制度をめざす活動

【13.10.05】医師・歯科医師署名解説(上)

やはり必要な「患者負担軽減」
―医師・歯科医師署名にご協力を

 保険医協会は、「70〜74歳の窓口負担の1割負担を継続し、患者窓口負担を大幅に軽減すること」「技術料を中心に診療報酬を大幅に引き上げること」の2項目で医師・歯科医師署名を開始した。受診抑制や健康悪化にもつながる患者負担増を食い止め、安心の地域医療実現のための診療報酬改定を大幅プラスとするために、会員各先生のご協力をお願いしたい。今回は、患者負担軽減を中心に解説する。
 政府は、70〜74歳の医療費窓口負担を、来年度から現行の1割から2割へ引き上げ、高額療養費制度も見直すとしている(社会保障制度改革推進法の「法制上の措置(骨子)」、8月21日閣議決定)。「社会保障制度改革推進法」の「保険給付の対象となる療養の範囲の適正化」の具体化である。
 70〜74歳の窓口一部負担は、2008年の後期高齢者医療制度発足時に「本則2割」とされたが、後期高齢者医療制度への広範な反対世論を前に、麻生政権(当時)が特例措置として1割に凍結させたもの。

2割負担化は受診抑制招く

 厚労省は、2012年に作成した資料で、70〜74歳の平均年収は198万円で、うち患者負担額は1割負担のもとでは年間4.5万円に抑えられているが、2割になれば7.4万円になると試算している(「1人当たり」の平均値であり、実際には、複数科受診も多いことを考えると、高齢者の負担は、この数倍規模になると思われる)。
 このほか、患者負担増が受診抑制や健康悪化につながることは、下囲みに見るようにいくつかの指標で明らかである。

「75歳以上3割」「風邪など7割」も

 患者負担増の動きは、70〜74歳の2割負担化に留まらない。産業競争力会議(3月22日)では、「後期高齢者医療制度も2割にせよ」「(現役も含め保険範囲の制限を求め)風邪などは七割負担にせよ」との意見が出されたほか、経済同友会は「75歳以上は自己負担3割」(2月19日の国民会議提出資料)と提言。政党でも、日本維新の会は『(社会保障制度改革の議論で)年齢で負担割合に差をつけない』『医療費自己負担割合を一律化』としており、この案では75歳以上も3割負担となる(維新『骨太2013―2016』)と記述している。
 当面する70〜74歳の2割負担化などを許せば、患者負担の際限なき拡大につながるのは必至である。

「70〜74歳の1割継続」は医療界共通の願い

 日本医師会は、2014年度予算要望の中で「70歳未満の3割負担を2割へ」「70〜75歳未満の1割負担の継続」などを要望している。日本歯科医師会も、大久保会長が「窓口負担3割は社会保障の枠を超えており、窓口負担軽減は必要との決意は固い」(2012年秋の代議員会)、「義歯などは単価が高い。従って高齢者は1割負担を望んでいる。日歯は(本則2割に)反対だ」(2013年7月18日)と述べたほか、「70〜74歳の自己負担を可能な限り1割に据え置く」内容の要望書を提出したと表明している(9月12日、臨時代議員会で)。「70〜74歳の一割継続」は、医療界共通の要求になり得る課題といえる。

高額療養費見直しは、患者負担増

 高額療養費制度の見直しは社会保障制度審議会医療保険部会で議論が進められているが、厚労省提出案は所得区分を現行区分より細分化し、70歳未満の「一般」の一部で引き下げとなるほかは、70歳以上の「現役並み」「一般」、70歳未満の「上位」「一般」各層で軒並み上限額引き上げが提示されている(低所得層など一部階層は「据え置き」も)。高額療養費の自己負担限度額は、2000年に標準報酬月額の22%だったが、2006年にボーナスを含めた総報酬の25%に引き上げられるなど、負担増が続いている。

患者負担増がもたらす受診抑制・健康悪化

◎日本医療政策機構「日本の医療に関する世論調査」(2013年7月発表)……「深刻な病気にかかったときに医療費を払えない」ことに7割が「不安を感じる」と回答。さらに、実際に26%が「過去12カ月以内に経済的な理由で受診を控えたことがある」と回答。
◎国立社会保障・人口問題研究所「生活と支え合いに関する調査」(2013年7月発表)……「過去1年間に必要だと思うのに医療機関にいけなかった経験がある」と14.2%が回答、このうち「公的医療保険に加入してはいたが、病院や診療所で医療費を支払うことができなかった」は65歳以上で9.2%、20〜64歳で15.3%もいる。
◎東京大学大学院研究チーム(2012年)……69歳までの窓口3割負担が70歳以降一割に軽減されることで「精神面での健康状態が70歳以降急速によくなり、医療サービスを受けていない人も精神的な負担軽減につながっている」と指摘。同チームの橋本教授は、『ランセット』の日本の皆保険制度特集(2011年)で、日本が世界トップの長寿国になれたのは高血圧管理による脳卒中死亡率の低下が原因と分析されていることを紹介。「皆保険の下で薬物療法へのアクセスがよくなったことは大きい」と評価している。
◎日医「患者窓口負担」アンケート調査(2012年9月)……「経済的な理由により受診しなかったことがある患者のうち半数強が受診を控えた結果、症状が悪化した。受診差し控えを経験した患者の割合は、患者一部負担割合に比例して多い」と分析、負担増に警鐘を鳴らしている。
◎受療者医療保険学術連合会の在宅療養関連の受療者や家族等対象の調査……高齢者の療養に対する公的医療サービスの財源負担について、「公費」を増やすことを望んでいる人が50.7%、「個人負担保険料」は減らすべきとの回答が31.4%で、受療者は自己負担を望まない傾向にあると分析。(メディファクス2013年9月18日付)

疑問に答えて

「診療報酬引き上げ」は患者負担増?

 保険医協会が診療報酬引き上げを要望することについて、「国民経済が深刻な不況下では国民に支持されないのでは?」「患者負担が増えてしまうのでは?」との意見もある。
 この点では、今回の医師・歯科医師署名が、診療報酬引き上げと患者負担軽減を同時に求めていることがポイントである。つまり、診療報酬引き上げのみが実施されると「3割」「1割」などの負担割合が固定したままでは患者負担は増えてしまうが、同時に患者負担割合を減らせば、患者負担にならずに、安心の地域医療を守る診療報酬での手当が実現する。協会は、患者負担大幅軽減の請願署名も取り組んでいるが、この点の理解も得ながら患者と繰り返し説明・対話することが大切である。

財源はどうする?

 安倍首相が来年4月からの消費税増税を決断したとの報道の一方で、法人税減税を同時に行う経済対策を講じるとの報道もある。設備投資分の減税や震災復興税の法人分を廃止するものだが、復興税廃止だけで9,000億円もの税収減になる。財界は法人税の実効税率を現行35%から25%まで下げるよう要求しているが、その減税規模は4兆円以上に達する。
 この道は、1997年の消費税5%増税時の再来である。1997年の消費税増税時、所得税・法人税の大幅減税が実施され、それ以来の17年間で100兆円もの税収が失われ、今日に続く内需停滞・財政危機を招いた。消費税増税は差し引き税収増につながらなかったのである。「消費増税と法人減税を同時に進めれば、個人の税金で法人減税を賄う形になりかねない」(「毎日」9月20日)のであり、同記事は自民党税調メンバーの「消費の落ち込みが心配なら所得税減税がストレートではないのか」との批判も紹介している。法人税減税で恩恵を受けるのは一部の優良大企業であり、賃上げには回らず内部留保を増やす効果しか生まない。
 政府・財界は、社会保障給付費が100兆円を超えて増大することが財政赤字を深刻化するという図式で社会保障給付の削減を狙っているが、社会保障の国庫負担額は、今年度は29.1兆円で、社会保障給付費の3割に満たない。残りの7割は主に保険料や自己負担などで、国民や事業主が支払っているのである。
 大企業が蓄えた260兆円を超える内部留保は、「企業の増加した利益は、配当や内部留保の増加につながっている」(厚労省『労働経済白書』・2012年版)実態を改善することこそが求められている。
 また、非正規雇用の増加や賃金の低下が、景気を停滞させ、国の税収と社会保険料の減少を招いている構造も改善が必要である。雇用破壊が、社会保障財源の空洞化を促進することにつながるので、GDPに対する社会保障財源負担割合で、公費と事業主の負担が少ない日本の現状を改めて、大企業や富裕層に応分の負担を求める必要がある。


「診療報酬引き上げ」項目についての解説はこちら

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