より良い医療制度をめざす活動

【10.09.05】新高齢者医療制度案(解説)

高齢者の保険料は現役世代と別勘定の仕組みを温存

 「年齢による差別は無くすはずだったのでは?」
8月20日に厚労省の高齢者医療制度改革会議が了承した「中間とりまとめ」に疑問の声が上がっている。
 「中間とりまとめ」は、民主党政権が、後期高齢者医療制度に代わり、2013年4月からの導入を目指す新制度の骨格案となるものだが、その内容を検証してみた。

75歳以上別勘定の現行制度の根幹を引き継ぐ

   「中間とりまとめ」によると、現行制度では各医療保険から切り離された75歳以上の高齢者約1400万人は、1200万人が国保に、会社員やその扶養者200万人が被用者保険に加入する(図参照)。
 「中間とりまとめ」の最大の問題点は、国保に加入した75歳以上の高齢者を都道府県単位の財政運営とし、現役世代とは別勘定とした点である。
 改革会議委員からも「国保の中で年齢区分を行うのは、今の制度の年齢区分と変わらないのではないか」(阿部保吉日本高齢・退職団体連合事務局長)と指摘されているように、今回の「中間とりまとめ」では、病気になりがちな高齢者の医療だけ別勘定にした後期高齢者医療制度の根幹を温存することになる。

会議の姿勢が問われる「高齢者負担の明確化」
 高齢者と現役世代を別勘定にする狙いは、後期高齢者医療制度をつくった当時の厚労省官僚が「医療費が際限なく上がっていく痛みを、高齢者が自らの感覚で感じとっていただく」と本音を語っていたように、医療費増の抑制が中心的な目的として設計されたものだ。
 今回の「中間とりまとめ」の原案が7月23日の改革会議に出されたが、その原案の冒頭に「後期高齢者医療制度は、(中略)高齢者の医療費に関する負担の明確化が図られたことや、都道府県単位の運営とすることにより財政運営の安定化と保険料負担の公平化が図られたことは、一定の利点があったと評価できる」と記述されて、“高齢者に痛みを感じとってもらう”ことが現行制度の利点と位置づけられていた。
 改革会議委員から「この案は、今の制度に『利点があった』ところから入っている。この会議の姿勢が問われる」(岩見隆夫毎日新聞客員編集委員)との批判を受け、冒頭での記述は削除されたが、記述場所を移しただけで、この表現はそのまま残されている。
場所を移しても「会議の姿勢が問われる」ことに変わりない。

「医療費適正化」を法律から削除するか不明
 後期高齢者医療制度の根拠法は、高齢者の医療の確保に関する法律(略称:高齢者医療確保法)によるが、その第一条「目的」、第三条「国の責務」、第四条「地方公共団体の責務」に、それぞれ「医療費の適正化」を明記し、医療費抑制の狙いが位置づけられているが、今回の「中間とりまとめ」には、高齢者医療確保法の廃止が明記されていない。
後期高齢者医療制度廃止を掲げるのであれば、少なくとも高齢者医療確保法を元の老人保健法に戻すところから議論を組み立てるべきではないだろうか。

国庫負担増のない国保の広域化は問題

 「中間とりまとめ」のもうひとつ大きな問題は、国保の広域化問題である。
 「中間とりまとめ」では、「市町村国保は、保険財政の安定化、保険料負担の公平化等の観点から広域化を図ることが不可欠である。都道府県が策定する『広域化等支援方針』に基づき、保険料算定方式の統一や保険財政共同安定化事業の拡大など、都道府県単位の財政運営に向けた環境整備を進めた上で、全年齢を対象に都道府県単位化を図る」としている。
 移行手順は、期限を定めて全国一律に都道府県単位化すべきという意見と、合意された都道府県から順次、都道府県単位化すべきという意見があり、引き続き検討することとされている。
 制度発足当初とは異なり高齢者や低所得者の加入率が高いなどの構造的問題を抱える市町村国保の矛盾を解消するには「広域化するしかない」との結論を導き出している。
 しかし、国保問題を考える際の根本問題は、国保への国庫補助の削減の問題を避けて通れない。
 国保収入に占める国庫支出金をみると、1974年当時58%あったが、2008年には25%へ激減している。
 これにより、保険料の値上げ、保険料滞納者の増加、更なる保険料の値上げという悪循環に陥っている。
 従って、赤字を抱え、異常に高い保険料の市町村国保が集まって都道府県単位に一本化しても、問題は解決しないのは明らかである。

国保への一般会計からの繰入・独自減免制度が廃止に
 逆に国保の広域化により、(1)一般会計の繰り入れ、(2)市町村独自減免制度、(3)保険料徴収方式の3点について、制度が後退する危険性が高い。
 一般会計からの市町村独自の繰り入れは、愛知県合計で2008年度に約230億円繰り入れられているが、広域化するとこの独自繰り入れは廃止される可能性が高い。
 また、市町村国保独自の減免制度も廃止される。
 これは2008年4月の後期高齢者医療制度発足時に、名古屋市国保の保険料減免制度が改悪されたことからも教訓的である。
 この時、名古屋市では、75歳以上の高齢者8万人が減免制度の対象から外され、11億円も削減された苦い経験がある。
 現行の市町村国保には、各市町村独自に工夫した減免制度が存在しているが、広域化を契機に全廃させられる危険性が大きい。

低所得者に負担の重い国保料徴収方式に統一
 さらに見落とせないのが、国保の保険料徴収方式の統一の問題である。
 愛知県内の市町村国保では、大半の市町村が「旧ただし書き」方式と言われる低所得者の負担が重くなる保険料徴収方式が採られている。
 しかし、名古屋市・豊橋市・岡崎市の3市は、住民税額を保険料算定の基礎としているため、障害者控除・寡婦控除など各種控除が考慮されることにより、低所得者や社会的弱者に配慮した算定方式とされている。
 広域化となれば、同一都道府県内では、保険料徴収方式の統一が大前提となるため、前記3市の保険料徴収方式は、「旧ただし書き」方式に変更され、低所得層などの保険料が大幅に引き上がるという影響も軽視できない。

70〜74歳の1割負担明記せず

 現在、70歳から74歳の窓口負担は、法定の2割を、暫定措置で1割に軽減している。
 「中間とりまとめ」は、「引き続き検討する」として、1割負担に改正するとも、1割負担を維持すると明記されていない。

まずは老健制度に戻し、その上で国民的議論を
 厚生労働省は、今後、愛知(10月1日)、広島(10月2日)、東京(10月5日)で地方公聴会を開き、その後年内に最終案を決定、来年の通常国会に関連法案を提出して、2013年4月から新制度をスタートさせる方針だ。
 高齢者の医療給付費の財政を別勘定にする考えをきっぱりと止め、まずは現行制度を速やかに廃止し、いったん老人保健制度に戻し、その上で国民の受療権を保障する医療制度の構築に向けて、国民的な議論を尽くすことが求められる。

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