より良い医療制度をめざす活動

【10.03.25】どうなる、新政権のもとでの高齢者医療

1、はじめに
新政権の基本的評価

 昨年9月に民主党を中心とする新政権が発足した。新政権の掲げた後期高齢者医療制度廃止の方針は、即時廃止し一旦老人保健制度に戻すのではなく、2013年に新制度を発足させ、その時点で廃止するとした。そのため「高齢者医療制度改革会議」を設け、検討に乗り出した。なぜ先延ばしとなったかを見るために、まず新政権を評価しておきたい。
 2010年度予算編成を通して分かった新政権の特徴は、小泉内閣からの新自由主義的「構造改革」の色合いが強く残っていることであった。「官僚政治打破」の掛け声は勇ましいが実際は「官から民へ」の主張であり、小泉構造改革と軌を一にするものでもある。
 中央社会保障推進協議会は民主党政権となって、政権交代以前に民主・共産・社民・国民新党の四野党が共同していた、後期高齢者医療制度廃止、障害者「自立支援」法廃止、生活保護母子加算復活、介護報酬改善の4要求で運動を進めた。
 この結果は後期高齢者医療制度については前述のとおりで「△」、障害者「自立支援」法廃止も後期高齢者と同様2013年度に新制度を発足させ廃止で「△」、介護報酬改善も2011年改定での対応としており「△」、結局すぐに対応した「○」は母子加算復活のみであった。
 毎年2200億円の社会保障費削減は完全ストップし、政権交代の成果と言える。しかし規制改革推進会議は2010年3月で任を終えるが、同じレールで行政改革刷新会議が新しく発足しており、「構造改革」の面では小泉政権同様の危険な面を残している。
 政治学者の渡辺治氏は、「新自由主義か新福祉国家か」の著書のなかで、現在の民主党を『頭部は「新自由主義派」、胴体は「開発政治派」、手足は「福祉政治追求派」』と、3つの構成部分があるとしている。
 しかも開発政治・新自由主義的政治以外の国家構想を持ち得ていないとし、「福祉政治追求派」を援助するためにも、今「新福祉国家」の提言が必要としている。私も同感である。

2、新政権の成長戦略と2010年度予算案
 新政権は昨年12月に、2020年度までの経済成長戦略基本方針を閣議決定した。ここでは環境・エネルギーや健康(医療・介護)など6項目を重点分野とし、健康で45兆円の新市場と280万人の新規雇用を創出するとしている。
 首相は「これからは人間のための経済だ」と述べ、自民党時代の企業の生産性向上といった「売り手」の強化策から、国民の購買意欲の向上といった「買い手」に軸足を置いたとされている。これはひとつの「転換」として期待したい。
 ただ環境や医療・介護を含め「重点分野」そのものは、「各省庁が政権交代前から練り続けてきた項目を再提出してきたのでは」(ニッセイ基礎研究所主任・矢嶋氏、12月31日付中日)との見方もある。
 2010年度予算案は、社会保障関係費は前年比9・8%の伸びで、初めて一般歳出に占める割合が5割を超えた。ダムなどの公共事業費は前年比18・3%減で、たしかに「コンクリートから人へ」の面はある。
 しかし財源では予算の48%(44兆3030億円)を国債発行に頼り、ムダ削減の仕分け圧縮は6770億円、埋蔵金活用は10兆6000億円に止まった。財源確保で大企業と軍事費の2つの聖域に手を付けなければ、2011年度以降は大変である。すでに民主党内では「消費税増税」議論容認が広がっているが、民主党の財源論の曖昧さが、予算編成過程で露呈してきたものと言えよう。

 高齢者医療制度のイメージ(中日新聞・2010年3月7日付) 3、高齢者医療制度はどうなるのか
(1)新制度への「長妻6原則」
 長妻厚労相は昨年10月早々に、後期高齢者医療制度の廃止は2012年度末とし、2013年度から新制度に移行させる、そのために有識者や自治体関係者で構成する「高齢者医療制度改革会議」を設置するとした。新制度への準備には2年かかることから、2011年度中に「廃止」を含む関連法案の成立をめざすとした。11月30日「高齢者医療制度改革会議」を発足、そこで「長妻6原則」を示した。
 「長妻6原則」とは、<1>後期高齢者医療制度は廃止する、<2>民主党の政権公約(マニフェスト)で掲げている「地域保険としての一元的運用」の第1段階として高齢者のための新たな制度を構築する、<3>後期高齢者医療制度の年齢で区分するという問題を解消する制度とする、<4>市町村国保などの負担増に十分配慮する、<5>高齢者の保険料が急に増加したり不公平なものにならないようにする、<6>市町村国保の広域化につながる見直しを行う――というもの。

(2)高齢者医療厚労省素案と舛添試案
 その後1月12日・2月9日・3月8日と「改革会議」が開かれ、そこではこれまでも議論されてきた、<1>一定年齢以上でリスク構造調整を行う案、<2>一定年齢以上の独立保険方式とする案、<3>突き抜け方式とする案、<4>完全な一元化とする案――などが提示され、新たに議論を始めている。
 こうしたなかで厚労省案として出ているのが、65歳以上はすべて国民健康保険(国保)に加入し、但し現役世代と別勘定というもの。1月12日に日経新聞がリーク、3月7七日には中日新聞が負担割合は高齢者の保険料17%・公費32%・現役の支援金51%と、負担割合まで報道した(別図参照、中日新聞・2010年3月7日付)。
 「県単位の国保」は2008年4月に後期高齢者医療制度が発足し、国民の怒りが火に油を注いだ如く広がり、半年後の10月に当時の舛添厚労相が「今後1年以内に見直しを行う」と表明した。その時に後期高齢者医療と国保を都道府県単位に再編して、「誰もが乗れる安心安全の県単位の大型バス」とした「舛添試案」そのもの。
 「改革会議」に参加する神田愛知県知事は、1月12日の会議で「広域化しても国保が抱える基本的な構造が変わらないと問題は解決しない。国が十分に下支えする覚悟がなければ受け皿にはなれない」と発言しているが、その通りと思う。

(3)高齢者医療問題はもともと国保問題
 高齢者医療「制度」問題は、別建てとなる前(老人保健制度時代)は、対象者のほとんどが国保加入者であり、そのまま国保問題=国保の財政問題であった。2008年4月から、一番「厄介な」75歳以上の後期高齢者約1300万人を追い出し、国保問題の解決に結びつけようとしたのが後期高齢者医療制度であった。
 国保の被保険者数は、国民皆保険発足の1961年度(市町村国保4627万人)から、1993年度(市町村国保3797万人)までは漸減した。1994年度から再び増加し2002年10月に初めて5000万人(含む国保組合)を突破、2005年度には5162万人と急増、国民の4割を超えた。
 この急増の要因で大きいものが、60歳以上の定年退職者=年金受給者がそのまま国保に流れ込んだことによる。2006年以降被保険者の減少(市町村国保で2007年12月では4700万人)が見られるが、厚労省の指導により派遣会社などが社会保険に加入したためとされている。
 国保は発足時から財政基盤は脆弱で、給付費の50%を国庫負担としていたが、これが1984年の医療大改悪で38・5%に引き下げられ、そのため保険料の引き上げが起こり、滞納者を生むなどの問題を抱えるに至っている。今日では国保事業会計全体の国庫負担割合は、25%となっている。
 国保の「広域化」は市町村間での国保の「財政調整」として進められ、今でも高額医療費共同事業・保険財政共同事業など、広く行われている。国保への国庫負担の「復元」がなければ、問題は解決しない。
 国保を守ることが国民皆保険制度を守ることである。そのためにも後期高齢者制度は一旦老人保健制度に戻し、また国保への国庫負担を給付費の50%に戻す道筋をつくる中で、あるべき「高齢者医療制度」を議論すればよい。

(4)どうなった新制度までの過渡的措置
 昨年10月長妻厚労相は、新制度に移行するまでは、現行の負担軽減措置を継続、また2010年度の保険料改定にあたっては、上昇を抑えるため公費を投入すると明言した。これがどうなったか見ておきたい。
 70から74歳の一部負担引き上げ(1割→2割)や低所得者への保険料軽減、健保被扶養者への保険料軽減などは据え置きとなった。しかし「人口増・医療費増」対応の2年に一回の保険料改定は、国庫の手当はせず繰越金充当と基金取り崩しでの対応を広域連合に指示するに止まった。
 当初厚労省は、2010年度は13・8%引き上げが必要と試算していたが、繰越金充当と基金取り崩しで保険料引下げの広域連合も生まれたが、22の都道府県で保険料引き上げ(中央社保協調べ)となった。愛知では4・95%(3660円)の引き上げとなった。
 75歳以上に限定した診療報酬は廃止することとなったが、90日以上入院の入院基本料を大幅に引き下げる「後期高齢者特定入院基本料」については、むしろ全年齢に拡大された。小泉「構造改革」以来の医療費抑制策の中心である、<1>平均在院日数の削減、<2>療養病床を初めとする病床削減――の二本柱は、2010年度診療報酬改定でもそのまま引き継がれている。

4、運動をつよめ前向きの解決の道を
 昨年9月の衆議院選挙で自公政権は民主党を中心とする新政権に代わり、2200億円の社会保障費連続削減をストップさせるところまでは来たが、「高齢者医療制度」をとっても明らかなように、多くの点でこれからどうなるかは不透明なところも多い。
 もともと今日の変化を生み出したのは、2007年7月の参議院選挙で与党が少数となり衆参逆転のバランスの中で、参院野党の共同が国民の運動と結びついて生み出してきたものが多い。
 参議院での後期高齢者医療制度廃止法案可決の歴史的一幕は、その最も大きなものであった。なかでも偶然小池(共産)・阿部(社民)・自見(国民新党)3議員が医師でもあり、その果たした役割は大きく、どちらかと言えば民主党は後からついてきていた。国会要請に参加し、現場に居たものとしての実感である。
 日本福祉大学教授の二木立氏は、新政権に対して「絶望もしすぎず、希望も持ちすぎず」と愛知県医師会での講演で述べたが、同感である。現状は「過渡的情勢」であり、運動を強めることによって、前向きの解決への道は開けると考える。
(協会事務局長・西村秀一)

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