より良い医療制度をめざす活動

【08.04.05】高齢者を邪魔者扱いする後期高齢者医療制度が発足 中止・撤回の声急速に広がる

高齢者を邪魔者扱いする後期高齢者医療制度が発足 中止・撤回の声急速に広がる

 現代版「姥捨て山」と呼ばれ、医療費がかかる高齢者を邪魔者扱いする世界でも例をみない後期高齢者医療制度が、四月からスタートした。
中止・見直しを求める多数の高齢者の声と、全自治体の三割近い五百三十を超える自治体意見書を黙殺しての制度開始である。
 なぜこれ程までに後期高齢者医療制度への批判や不満が広がったのか、全貌が明らかになった後期高齢者の診療報酬問題を中心に、改めてその問題点を考え、今後の廃止・撤回の運動に繋げてみたい。

75歳で切り離す矛盾

 高齢者やその家族が、後期高齢者医療制度について、最も怒りを集めているのが、「なぜ七十五歳になると、今までの医療保険から脱退させられ、別の医療保険制度に囲い込まれ、受けられる医療も差別されなければならないのか」という点である。
国民皆保険制度のある国で、このような特定の年齢で差別される仕組みを設けている国はどこにも存在しない。
 そのため、高齢者からは、実施が迫るに従い、受けられる医療内容への不安や怒りが広がってきた。
 こうした声に対し、厚労省は「医療内容は決して差別されることはない」と、その否定に躍起になっている。
 しかし、そうであるなら、「何故わざわざ後期高齢者独自の診療報酬を設けなければならないのか」という疑問が生まれる。
 それもそのはず、後期高齢者医療制度の根拠法を見ると、その理由は一目瞭然である。
 後期高齢者医療制度は、従来の老人保健法が名称変更され、今年四月一日から施行される「高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)」が根拠法となる。この法律の目的(第一条)、国の責務(第三条)、地方公共団体の責務(第四条)には、いずれも「医療費の適正化を図る」ことが位置づけられている。(資料1参照)
 いくら厚労省が、「受けられる医療に変わりがない、後期高齢者の特性に配慮したもの」と差別医療を否定しても、医療費抑制を目的にした法律が根拠法である以上、後期高齢者のみに適用される診療報酬が、高齢者に手厚い医療を提供できるように配慮したものだとは、誰も信じないであろう。

後期高齢者独自の診療報酬は10項目

 こうした中で、四月から始まる後期高齢者医療の診療報酬がどのように設定されるのか注目されていた。
 最終的に差別医療を許さない世論と運動が反映し、後期高齢者向けの別建て診療報酬点数表の新設は阻止された。そして、後期高齢者のみに適用される診療報酬項目は、(資料2)「後期高齢者のみに適用となる点数一覧」のように、最小限に留めさせることができた。
 このことは、高齢者医療に差別を持ち込ませない運動の貴重な成果だといえよう。
今回の診療報酬改定で、後期高齢者にのみ適用された診療報酬項目は、従来の老人保健の時から定められている項目で、実質的に名称変更だけの項目を除くと、十項目に限定された。その内、要件を満たした時に一回限り算定する項目が九項目で、継続的に算定する診療報酬は、「後期高齢者診療料」(月六百点)の一項目のみとなった。
しかし、新規項目が最小限に限定されたとはいえ、後期高齢者独自の診療報酬を設けたという点では、枠組みはつくられたといえる。今後の改悪を許さず、後期高齢者独自の診療報酬をなくす取り組みを強めるとともに、根本的な解決のためには後期高齢者医療制度そのものを廃止に追い込むことが重要である。

大混乱を招く後期高齢者診療料

 厚労省が、高齢者医療費を抑制するための問題意識は、外来の重複受診の制限、入院抑制・早期退院、在宅医療の誘導、終末期医療の削減の四点にある。
ここでは、外来医療での「後期高齢者診療料」と、終末期医療での「後期高齢者終末期相談支援料」の二項目についてのみ、言及しておきたい。
 「後期高齢者診療料」は、後期高齢者のみに適用される独自診療報酬の目玉というべき項目である。患者一人につき「一医療機関のみ」と限定し、複数の病気を抱える高齢者が複数医療機関に受診しないようにすることを目指している。今回はその手始めというべき位置づけで登場したものといえる。
 指導管理等、検査、画像診断、処置が包括された定額点数としては、極めて低点数で設定され、後期高齢者に安上がりの医療を押しつけることになりかねない。

算定しないよう呼びかける医師会も

 全国各地の医師会では、後期高齢者診療料を算定しない、あるいは届出をしないよう会員に呼びかけるところが広がっている。
 現在分かっている範囲でも、県レベルで山形、茨城、兵庫、長崎各県医師会が会員に通知したり、伝達講習会で、会長が呼びかけたりしている。地区レベルでは、青森県青森市・弘前市、山形県鶴岡地区医師会、群馬県高崎市、神戸市、鳥取県西部医師会(米子市など)、山口県岩国市、長崎県南高医師会(雲仙市及び南島原市)などの各地区医師会が同様の呼びかけを行っている。

終末期相談支援に名を借りた延命治療の抑制

 終末期医療では、「後期高齢者終末期相談支援料」という診療報酬点数が新設された。
 「回復を見込むことが難しい」と判断した後期高齢者に、医師・看護師等が共同して患者・家族とともに、終末期の診療方針を話し合い、文書にまとめた場合の点数だが、なぜ七十五歳以上のみの独自点数が必要なのか厚労省は説明不能状態に陥っている。
今回の支援料が機能するか否かは別にして、延命治療の抑制が真の狙いであることは明白である。厚労省の高齢者医療制度施行準備室の土佐和男室長補佐編著の「高齢者の医療の確保に関する法律の解説」がそのことを雄弁に物語っている。
 土佐氏は、後期高齢者の診療報酬に、七十五歳以上にだけ適用する診療報酬を新設した理由として、「年齢別に見ると、一番医療費がかかっているのが後期高齢者」「この部分の医療費を適正化していかなければならない」と述べている。そして、家族が延命治療を求めることが医療費膨張の原因であるとし、抑制する仕組みを検討するのが終末期医療の評価の問題であり、後期高齢者の新たな診療報酬体系の意図が「延命治療の制限」にあることを強調している。

四月の年金天引き開始で後期高齢者医療は焦点に

 三月十五日付け朝日新聞は、「四月十五日支給の年金から、保険料の『天引き』が始まるが、制度がよく知られておらず、高齢者の反発も予想され、後期高齢者医療が国政の焦点に浮かび上がってくる」と報道している。
 野党四党は、二月二十八日に後期高齢者医療制度等廃止法案を国会に共同提出し、その後、二回にわたって野党共同の集会も開催している。
民主党の菅直人代表代行は、野党共同開催の大集会で「七十五歳以上だけを切り分けた制度策定について、ある種の差別的な扱いをしても仕方ないという本音が厚労省に見える。これは人間の尊厳を冒す制度であり、我々は何としても制度そのものを止めさせる」と訴えた。
 また、共産党の小池晃政策委員長は、後期高齢者医療制度のことを「家族一緒に暮らしていた母屋から、七十五歳を過ぎた人だけ離れに移すようなやり方であり、人の道に反する」と厳しく批判している。
 「年金天引きで国民の怒りが沸点に達する」(社民党阿部知子政審会長)日は間近に近づいている。


(資料1)高齢者の医療の確保に関する法律の目的、国・自治体の責務
(目的)
第1条 この法律は、国民の高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するための計画の作成及び保険者による健康診査等の実施に関する措置を講ずるとともに、高齢者の医療について、国民の共同連帯の理念等に基づき、前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整、後期高齢者に対する適切な医療の給付等を行うために必要な制度を設け、もつて国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図ることを目的とする。
(国の責務)
第3条 国は、国民の高齢期における医療に要する費用の適正化を図るための取組が円滑に実施され、高齢者医療制度の運営が健全に行われるよう必要な各般の措置を講ずるとともに、第一条に規定する目的の達成に資するため、医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策を積極的に推進しなければならない。
(地方公共団体の責務)
第4条 地方公共団体は、この法律の趣旨を尊重し、住民の高齢期における医療に要する費用の適正化を図るための取組及び高齢者医療制度の運営が適切かつ円滑に行われるよう所要の施策を実施しなければならない。  

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