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【16.11.15】歯科医療と隣接医学研究会報告

糖尿病を有する患者さんの歯科治療の留意点(上)
歯科学術委員 荒尾 和子


 協会歯科学術委員会は、9月24日(土)に「歯科治療と隣接医学研究会」を開催した。今回は、愛知学院大学歯学部顎顔面外科学講座准教授の宮地斉氏を講師に、「糖尿病を有する患者さんの歯科治療の留意点」のテーマで行われた。講演の概要を歯科学術委員の荒尾和子氏がまとめたので、今号と11月25日号の2回に分けて掲載する。

 秋の気配を感じ始めた9月最後の土曜日、宮地先生から糖尿病を有する患者さんの歯科治療の留意点と周術期口腔機能管理についてお話を伺いました。

○糖尿病(Diabetes Mellitus:DM)とは
 インスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群。
 糖尿病治療の目標は、日常血糖を良好にコントロールするだけでなく、体重、血圧、脂質など総合的に管理し、糖尿病性網膜症、腎症、神経障害、末梢血管疾患といった大血管障害の発症や進展を抑制することが重要となる。
○1型糖尿病 2型糖尿病について
 以前は1型糖尿病=インスリン依存型糖尿病、2型糖尿病=インスリン非依存型糖尿病と分類されていたが、現在1型、2型などの成因「発症機序」と「インスリン依存状態」、「インスリン非依存状態」といった病態(病期)を明確に区別し、それらを縦糸と横糸の関係として組み合わせる考え方が一般的である。
○糖尿病に関する検査
 (1)空腹時血糖が126mg/dl以上、(2)HbA1c(NGSP値)6.5%以上といった検査結果が指標となる。ただし、HbA1cの値は、2〜3カ月の平均血糖値であるので、絶対値として過信しない。また、血糖値は食事や運動の影響を受けて変化する。(3)グリコアルブミン(GA:Glycated Albumin)は、血液中のタンパクの一種アルブミンとブドウ糖が結合したもの。HbA1cにくらべ、近い過去の血糖コントロール状態を知ることができる。近い将来には、糖尿病検査の中心となるとされている。
○糖尿病による易感染性
 (1)高血糖により細菌などの繁殖のための栄養が十分である、(2)微小血管障害による循環障害、(3)組織、細胞の低栄養状態のため細胞性免疫能低下や好中球遊走能低下がある、(4)神経障害、下顎智歯抜歯の際、下歯槽神経麻痺を起こしやすい、(5)黄色ブドウ球菌の皮膚、粘膜疾患、(6)栄養状態の不良。
○糖尿病薬の知識
 日本においてインスリン分泌促進(アマリール:SU=スルホニル尿酸)、インスリン抵抗性改善(アクトス:チアゾリジン)の処方が多い。欧米では、第一選択薬はメトホルミンであり、日本では乳酸アシドーシスの懸念があることや、日本では1回の投与量が低くされているため頻用されないが、SUは低血糖リスクが高い。
○高齢者の糖尿病診療ガイドライン
 高齢者ではHbA1c7.0未満になると、指数関数的に重症低血糖症が増えて脳卒中、転倒骨折、死亡リスクが上昇する。HbA1c8.0以上高くなると認知症、うつ、転倒骨折を起こしやすくなる。このためHbA1cを7.0から7.5の範囲とすることが、最も安全性が高い。
○歯科治療上の留意点
 病歴確認としてお薬手帳の活用のほか、本人が糖尿病に罹患していることを知らない場合もあることに注意が必要である。
 症例として、左顔面腫脹の患者で、既往歴は特に本人の申告がなかった。当初は、患者自身が鼻毛抜去後に左前庭部の発赤腫脹と上唇腫脹があり、近在歯科受診にて抗菌剤、消炎鎮痛剤が処方されるも改善がなかった。その後、左側頬部まで腫脹拡大したため、歯性感染を疑われ、愛知学院大学附属病院口腔外科を受診したところ、血液検査により血糖値300mg/dl以上、CRP22以上で鼻腔と口腔前庭が交通していることが綿棒挿入にて確認された。入院後インスリン投与により、血糖コントロールされるに伴い病状が改善した。
 このような患者さんが来院された際は、病歴確認なしの除石や、抜歯治療の危険性を考えなければならない。また、観血処置前のバイタルサインの確認、内服薬の有無、食事を済ませたかなどの確認が大切である。
○糖尿病の急性合併症
糖尿病性ケトアシドーシス(高ケトン体症による代謝性アシドーシス)、高浸透圧性高血糖昏睡(高ナトリウム血症を伴う高度脱水と高血糖)、低血糖や低血糖昏睡(二次性低血糖)があげられる。
(つづく)

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