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【10.10.23】他科の疾患を持った患者さんの歯科治療(5)

他科の疾患を持った患者さんの歯科治療(5)

消化管疾患の基礎知識
歯科学術委員 田辺 芳孝

協会歯科学術委員会は、10月23日(土)にシリーズ研究会「他科の疾患を持った患者さんの歯科治療研究会を開催した。第5回は豊橋市民病院消化器内科副部長の北畠秀介氏を講師に「消化管疾患の基礎知識」のテーマで行われた。講演の概要を歯科学術委員の田辺芳孝氏がまとめたので報告する。

内視鏡の画像や動画を提示され、大変理解しやすい説明でした。私自身、歯科の日常臨床でGERDについて深く認識していなかったので、これからの臨床に役立てたいと思います。今回の講演は、食道、胃の炎症と機能異常を主とした内容で、その概要を報告します。

I・食道
1.胃食道逆流症(GERD)
食道粘膜の炎症の有無に関わらず、胃酸逆流により引き起こされる胸やけ、呑酸などの病態。その他の症状として、ゲップ、胸痛、慢性咳嗽、咽頭違和感などがある。GERDは、男性より女性に多く、食習慣の欧米化や夜間の食事、ストレス、ピロリ菌感染率の減少、Ca拮抗剤の投与などと関わりを持っている。

(1)ロサンゼルス分類(内視鏡分類)
GERDは、食道の粘膜障害の長径や箇所、粘膜障害の範囲により六型に分類される。

(2)GERDの治療
(1)薬物治療: PPI(プロトンポンプ阻害薬)、H2-blocker(ガスターなど)、消化管運動賦活薬、漢方薬
(2)生活指導:摂食後臥床の禁止(30分〜60分)、満腹になるまで食べない、姿勢の改善,減量、油もの、甘い物の制限、便秘の改善

(3)GERDの食道外症状
慢性咳嗽(PPIの効果は限定的)、気管支喘息(一部の喘息にPPIが有効)、睡眠障害、咽喉頭症状、中耳炎、歯牙酸蝕

(4)咽喉頭逆流症(LPRD)
酸性胃内容物の逆流により、耳鼻咽喉科領域に諸症状を呈する病態。
(1)LPRDの病態:直接障害説(胃内容物が、咽頭・喉頭等へ逆流し直接粘膜を障害する)、反射説(胃内容物が、食道粘膜を刺激しておこる迷走神経を介した反射)、複合説(上記二説の複合)
(2)LPRDの診断:喉頭鏡所見にLPRDの特異的所見はないので、喉頭鏡、内視鏡検査、pHモニタリングなどの検査を総合的に判断し行う。
(3)LPRDの治療:GERDの治療方法に準ずる。PPI不応例に対しては、消化管機能賦活薬が有効の場合がある。時には抗鬱薬、精神安定剤を投与する。生活習慣の改善も有用。

(5)GERDと歯科口腔外科疾患:GERDに起因すると考えられるものとして、歯牙酸蝕、口臭、舌の過敏症状などがあげられる。
(1)GERDによる酸蝕発生機序:胃内容物が慢性的に口腔内に曝されることにより、口腔内pHが酸性に傾き、エナメル質の脱灰、象牙質の溶解と進行。上顎歯列の口蓋側で多く認められる。下顎前歯は、舌により守られているので影響は少ない。
(2)GERDによる口臭:一般に口臭を訴える患者のうち、消化器疾患が原因と考えられるものは1%程度といわれており、さらにこれらの因果関係は証明されていない。
(3)GERDと舌過敏症:舌の灼熱感や知覚過敏としてあらわれ、時には口腔内の酸味を訴える
(4)治療:PPIや消化管運動賦活薬の投与。重層(NaHCO3・アルカリ性)でのうがいやブラッシング。ナイトガードの装着。
(5)ピロリ菌除菌と歯牙酸蝕:ピロリ菌を除菌すると胃酸分泌量が増加しGERDとなると、歯牙酸蝕を起こすという説があるが疑問である。

2.Barrett食道:胃から連続して食道内に存在する円柱上皮をBarrett粘膜という。Barrett食道は食道腺癌の発生母地となる。食道癌は、欧米人ではBarrett腺癌が多く、日本人では扁平上皮癌が多い。GERDの増加によりBarrettが増加し食道腺癌が増加するという説があるが仮説の段階である。

3.内視鏡的切除術:主に早期胃癌、リンパ節転移のない症例に適応。ESD(粘膜下層切除術)の出現により、スネアを使ったEMR(粘膜切除術)の頃の内視鏡的切除術の適応が拡大した。

II・胃
1.FD(機能性異常):慢性の上腹部愁訴があるにもかかわらず、その症状を説明できる器質的疾患・代謝性疾患が見つからない場合。

(1)FDの診断:FDの診断の必須条件は、次の項目が1つ以上あることである。
a)つらいと感じる食後のもたれ感、b)早期飽満感、c)心窩部痛、d)心窩部灼熱感

(2)FDの治療:消化管運動調節薬の投与。PPIを使用することもある。改善がみられない場合は、抗鬱薬の投与も行う。

III・下部消化管
1.IBS(過敏性腸症候群):過去3ヵ月間、月に3日以上にわたって腹痛や腹部不快感が繰り返し起こり、次の項目の2つ以上がある。a)排便によって症状が軽快する、b)発症時に排便頻度の変化があるc)発症時に便形状(外観)の変化がある
IBSの治療:各種整腸剤の投与。「男性の下痢型IBS」にはラモセトロンが有用(治験で女性には効果がなかった)。改善がない場合、抗欝薬投与や心療内科のカウンセリング

IV・機能性消化管障害(FGIDs)
胸腹部に消火器臓器に由来すると考えられる不快な自覚症状が高頻度に出現するにもかかわらず、内視鏡検査を含む精査を行っても症状の原因となる異常を発見できない病態。

V・質疑応答
1.GERDの判断のポイントは?
胸焼け、ゲップ、酸っぱい物や甘い物の逆流を感じる事。

2.PPI長期投与の副作用は?
骨頭壊死、肺炎がある。

3.GERDの咳に特徴はあるのか?
例は少ないが 唾液のような泡のような痰が出る。

4.胃瘻の副作用は?
逆流による誤嚥性肺炎。予防方法として、上体を起こし、胃内容物がない事を確認。注入栄養剤はゼリー状を選ぶ。

5.内視鏡で食道静脈瘤は判るのか?
紫色、みみず腫れをしている。

※当日の様子を撮影したDVDをご希望の先生は、協会歯科担当事務局までご連絡ください。
※次回の研究会は「口腔領域と精神疾患」をテーマに2月6日(日)午後1時30分から協会伏見会議室で開催します。

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