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【09.08.15】身近な法律知識−弁護士さんに聞いてみよう NO.17

賃貸マンション退去時の修繕費用は誰が払う?

Q.賃貸マンションに二年間住んでいましたが、分譲マンションに移ることになりました。壁や畳の傷みは少ないと思っていたのに、賃貸人側からは原状回復のための修繕費用に敷金を充てると言われ、敷金がまったく返還して貰えません。これは仕方がないことなのでしょうか?

A.契約の内容にもよりますが、建物賃貸借の場合、基本的には、通常の使用による建物の損耗・劣化について、明け渡し時の修繕費用の負担は賃貸人が負うべきものとされていますので、それを敷金から引くことは不当であり、敷金の返還を請求できます。一般に建物の通常の使用に伴う損耗や劣化による価値の減少分について、賃貸人は家賃の中から既に回収しているといえるからです。
 賃貸借契約の賃借人は、契約の終了時に賃借物件の原状に回復して返還する義務を負っています。建物賃貸借においてこの「原状回復義務」の意味を「入居したときの状態に復する義務」と捉えると、通常使用の損耗であろうと何であろうと全て賃借人の責任で修繕を施さないといけないかのように思われがちです。実際にそのように考える賃貸人は少なくなく、建物賃貸借終了時の建物修繕費用の負担をめぐって、多くのトラブル・紛争が生じています。
 そこで、国土交通省は、これらのトラブルの未然防止と解決のために「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を平成十年に公表し、原状回復の費用負担の在り方について妥当と考えられる一般的な基準を示しました。さらにその後の裁判例や取引の実態を踏まえて平成十六年に同ガイドラインの改訂版が公表されました。その概要はインターネットの国交省のサイトなどで確認できます。
 同ガイドラインでは、まず「原状回復」の意味を、借主が故意や過失により住宅や設備を汚したり傷つけた場合に修繕義務等を負担することであるとして、入居した当時の状態に戻すことではないことが確認されています。そして、借主に過失があった場合でも、借主の負担する修繕の範囲は修繕箇所を含む最低限可能な工事単位を基本に考えられ(例えば、タバコで畳に焦げ跡を付けた場合、部屋全部でなくその畳一枚の修繕費用を負担すれば良い)、さらに契約期間が長ければ借主の負担する修繕費用の割合も減少すると考えられています。
 このように通常損耗の修繕費用を原則として賃貸人の負担とする考え方は平成十七年の最高裁判決でも認められていますが、他方で、同最高裁判決は、一定の厳格な条件付きながら、特約によって通常損耗の負担を賃借人とすることも可能であることを前提にしています。近時の裁判例において、そのような特約は、契約書条項等への表示が明確であること、内容の合理性(非暴利性)、契約時に賃借人が明確に特約を認識していることなど、相当厳格な条件を充たしていないと有効と認められない傾向にありますが、特約の効力が認められて敷引きを有効とした事例も存在します。修繕の費用負担に関する契約書の定められ方等によっては通常損耗が借主の負担とされる場合もありえますので注意が必要です。
(協会顧問弁護士 稲垣仁史)

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